自転車IoT化の近未来展望・2
前の記事に書いたように、高速・大容量・短タイムラグ・同時多端末接続の通信環境は、CPUもメモリーも持たない端末デバイスによる「ゼロクライアントシステム」の広がりを可能にします。
スマートフォンの時代は終わり、「脳なし・記憶力ゼロ」の「おばかフォン」の時代が来ます。
おばかな電話に高い金を払う人はいませんから、携帯電話は大幅に安くなります。通信会社は、デバイスを無料で配布し、利益は月々の通信料金で確保していく戦略を引き続き採るでしょう。
そしてデバイスそのものも、小さく軽くなります。部品がずっと少なくなるので、故障もしにくくなります。消費電力はCPUやメモリーが要らない分だけ少なくなり、バッテリーの持ちもよくなります。もともと「脳なし」なので、次々に高性能の新製品が出てきて、欲しくなるということがなくなり、同じひとつのデバイスを長く使い続けられます。
では、おばかフォンの時代は、自転車のIoT化にどのような影響をおよぼすのでしょうか。
「小さく、軽く」が大いに好ましい
ひとつ念のために申し添えますが、「おばかフォン」と言っても、本当にバカになるわけではなく、使用中の体感上は、むしろ今よりスマートに(賢く)なっているはずです。考えることと覚えることを中央ホストサーバーに任せているだけで、友だちの電話番号も、たくさん撮った写真も、お気に入りのミュージックPVも、すべてサーバー上にあり、今あるスマホと同じように操作すれば、写真もPVも見られるのです。操作性もレスポンスも、今と変わらないでしょう。
それでいて上に書いたような数々のメリットがあるわけですから、悪いことなんてひとつもありません。
中でも「小さく軽く」なるところが、自転車とのコンビネーションを考える上では重要なポイントになります。
自転車IoT化の2つの路線
自転車のIoT化は始まったばかりですが、現時点から当面の間、つまりゼロクライアント化が十分な広がりをもたない間は、次の2つの方向が考えられます。
①大容量バッテリーと電動アシストモーターをはじめ、通信装置、各種センサー、GPS、Bluetooth、ヴィデオカメラなど、あらゆる機能を自転車側に搭載する「重戦闘機路線」。
②自転車そのものは電動アシストを搭載せず、IoT化機器は機能を絞り、できるだけ小型軽量のものを選ぶ「軽戦闘機路線」。
自転車はもともと、ジャンル・用途を問わず軽いに越したことはないとされる世界です。しかし、軽さへのこだわりが低く、「重くなってもこの方が良い」と言ってフロントにもリアにもごっついサスペンションを付けるマウンテンバイクやダウンヒルバイクの領域では、「もういっそ全部付けちまえ」という開き直りから、①の「重戦闘機路線」をとる可能性が高くなります。電動車椅子や電動アシスト歩行補助器など介護関連車両もこの傾向になりそうです。
その一方で、ロードレーサーの領域では軽さへのこだわりには強いものがあります。車体やパーツ、自分自身の体重まで、軽ければ軽いほど良いと基本的には考えています。「マグロ!」と言われてうれしくないロード選手はいません(イタリア語で「やせた!」って意味です)。こちらの領域だと、②の「軽戦闘機路線」になるでしょう。
おばかフォンは路線の迷いを無くす
「小さく軽い」ゼロクライアントおばかフォンが登場すると、上記2つの路線を一本化できる道が開かれます。どちらの路線も、おばかフォン1台ですべて解決です。
通信機能、GPS、加速度センサー、Bluetooth、カメラはすべて現在のスマートフォンに付いており、CPUとメモリーがないだけのおばかフォンにも付いています。
GPSがあれば、画面に地図を表示させれば同時に現在の速度も表示されますので、自転車本体にホイール回転数などをカウントするセンサーを付ける必要はありません。現状では通信タイムラグのため、今の瞬間の速度とGPSを介して計測され表示される速度との間のズレが大きくなりますが、タイムラグ1000分の1秒の5Gでは、このズレはずっと小さくなります。
またGPSがあれば、自転車に付ける高度センサーは最初から不要です。
速度をはかる精度が向上すれば、ケイデンスセンサーも不要になります。速度と現在のギア状態から、ペダルの回転数が計算できるからです。シマノの上位機種のコンポだと、MTB、ロードいずれもシフトチェンジは今や電動で、かつシフト状態は電子的に把握されていますので、そのデータを使えばいいのです。
加速度センサーもおばかフォンにありますから、その気になれば自転車の姿勢変化もずっと記録できます。
このように、マウンテンバイクであれロードレーサーであれ、およそ記録したいと考えられるような項目はすべて、おばかフォン1台で検出・記録可能です。
バッテリー・電動アシスト車でなくとも何とかなる
電動アシスト機構を搭載しないロードレーサーに、おばかフォンのみをマウントしたケースでも、バッテリーの持ちは十分に何とかなるだろうと考えられます。
上記のように、CPUとメモリーの消費電力がない分、減りが抑えられますし、そのCPUとメモリーが占めていた空間を整理して、より大きなバッテリーを装備できるようにすれば、さらにバッテリー持久力への不安は和らぎます。
もちろん、電動アシスト装備のマウンテンバイクならまったく問題ありません。
おばかフォンは自転車IoT化を決定する
以上、あくまでも近い将来ありうることの展望という形でしたが、移動体通信規格5Gは私たちのコンピューターライフ、モバイルITライフを大きく変える可能性があります。
その波は自転車のIoT化にも甚大な影響を与えます。その流れを決定すると言ってもいいでしょう。
遠い未来の話ではなく、すぐ目の前の話なんです。楽しみですね。
izumi
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